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擁壁とは?土地の土砂崩れを防ぐ擁壁の種類と基準適合の確認方法
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住宅購入を検討する際「擁壁(ようへき)」という言葉を目にして、「何のことだろう」と感じたことはありませんか?今回は、物件選びの重要なポイントにもなる「擁壁」に関する基礎知識をご紹介します。

また、擁壁のある土地を所有する人の維持管理責任や、購入したい物件が擁壁不適合ではないかをあらかじめ確認する方法など、物件を購入する前に知っておきたい情報もまとめました。どの知識も住宅購入前に知っておきたいことです。住宅購入を検討している方はぜひ参考にしてください。

擁壁とは?

そもそも「擁壁」とは何を指し、どういう役割を持っているのでしょうか。

擁壁の役割とは?

擁壁とは、高低差のある土地で、側面の土が崩れるのを防ぐために設置される壁状の構造物です。

高台や丘にある住宅地は、隣家との間に土の安息角(あんそくかく)を超える大きな高低差が生まれる場合があり、強固な鉄筋コンクリートやコンクリートブロックなどで支えなければ、土砂・建物の荷重や雨水の水圧で崩れてしまう危険性があります。擁壁には、崖の崩落リスクを防止し建物を守る役割があるのです。

安息角(あんそくかく)とは、土が最も安定する最大角度のことです。一般的には盛土の安息角は30度となり、土質によって角度が決まります。

 

擁壁の維持管理責任とは?

法律として明記されているわけではありませんが、擁壁のある土地を所有する人には、擁壁の維持管理責任があると見なされます。

地震などで擁壁が倒壊し、下の家にがれきが当たって損壊するというような事故が発生すると、擁壁のある土地を所有する人は損害賠償責任を負わなくてはなりません。少し難しい言い回しになりますが、自身が所有する土地にある「工作物」に問題があり、他人が損害を被った場合、その損害を賠償する責任のことです。

つまり、土地の所有者は、過失の有無に関わらず責任を負う「無過失責任」があるとみなされています。

このようなトラブルを起こさないよう、土地や建物を購入する前に擁壁適合の確認や地盤調査の実施などの対応が必要になってきます。古い擁壁はもちろん、新しい擁壁でも地震や強い圧力の関係で、亀裂やひび割れが入っている可能性があります。

擁壁不適合の場合は、強度を高めるために擁壁の補強工事が必要になります。その費用は非常に高くなることもあるため、できれば擁壁不適合の擁壁がある物件の購入は避けたいところです。

 

擁壁と土留め(どどめ)はどう違う?

擁壁と土留めの違いは、特定の構造物を指すか概念そのものを指すかという点が大きく異なります。

  • 擁壁:土の崩壊を留める壁状の構造物
  • 土留め:法面(のりめん)※や崖の崩壊を防ぐための土木工事

※法面とは、切土や盛土など、人の手で作られた斜面のこと

擁壁は、土の崩壊を留める土留めのひとつであり、壁状の構造物そのものを指す言葉です。それに対して、土留めは法面や崖の崩壊を防ぐ工事を指し、構造物を指す言葉ではありません。「法面や崖の崩壊を防ぐ」という目的は同じなのですが、指す「モノ」が違うと覚えておきましょう。

ここまでは擁壁の基礎知識を説明しました。次に擁壁に関連する法律として、宅地造成等規制法の基礎知識について解説します。

 

宅地造成等規制法の基礎知識

ここでは「宅地造成等規制法」の概要と規制について紹介します。

宅地造成等規制法とは?

宅地造成等規制法とは、1961年に制定された宅地造成に関する法律です。この法律によって、がけ崩れや土砂流出などの危険性がある地域の災害防止を目的として、盛土や切土に規制が設けられました。
宅地造成等規制法の施行前に作られた擁壁の中には、現行の基準に満たないものも存在します。購入物件に擁壁がある場合は、現行の基準を満たしているかの確認が必要だと認識しておきましょう。

 

規制された宅地造成工事とは?

宅地造成工事規制区域内で条件に当てはまる工事を行う場合は、宅造法第8条に定められている通り、造成する前に都道府県知事に許可を受ける必要があります。この工事が「規制された宅地造成工事」です。

具体的には、下記が「規制された宅地造成工事」に該当します。

  • 高さ2メートル以上の崖の切土
  • 高さ1メートル以上の崖の盛土
  • 切土と盛土を同時に行う時、合計した高さが2メートルを越える
  • 切土と盛土を併せた面積が500平方メートル以上

規制された宅地造成工事においては、擁壁の技術基準が定められています。「宅地造成等規制法施行令第14条に基づく認定擁壁一覧表」が国土交通省のサイトに掲示されているので、確認したい方はサイトにてチェックしましょう。

 

がけ条例との関係

崖付近に家を建てる場合、各都道府県や自治体で定められた「がけ条例」をクリアする必要もあります。規制内容は自治体によって異なりますが、一定の高さの崖の上または下に建物を建築する場合、規定の高さ以上の擁壁を設けることなどが定められています。
詳細はその土地の自治体ホームページなどから確認してください。

擁壁の種類

擁壁は、形状や工法、材料によってさまざまな種類があります。ここでは、宅地に用いられる擁壁についてご紹介します。

RC擁壁(鉄筋コンクリート擁壁)

RC擁壁とは、鉄筋コンクリートの擁壁のことです。立地条件や斜面の形状、崩落リスクのレベルによって、さまざまな形状の擁壁が造られます。

(現場打ち)RC擁壁

RC造擁壁

現地で型枠を組み、鉄筋を敷設し、コンクリートを打設する擁壁。現場で築造する為、複雑な形状や現場の状況に合わせて施工で来ることが特徴です。

PC擁壁

あらかじめ工場で製造されたPC(プレキャストコンクリート)部材を現場に納品して構築します。工場生産の為、製品の仕上がりのバラツキが少ないですが、搬入に大きなクレーン等の重機が必要になります。

CP型枠擁壁

国土交通省の認可を受けたCP型枠のコンクリートブロック製の擁壁になります。様々な外観のブロックがあり、エクステリアとしての機能を有するものもあります。

 

練積み造擁壁

大谷石・玉石・割石などの石や、コンクリートブロックを積み上げて造る擁壁です。目地にモルタルやセメントを充填して堅固に接合しているものを、「練積み」と呼びます。
鉄筋コンクリートよりは安価で、形状もバリエーションがあり施工は短期間で済みますが、耐震性などの面での強度は劣ります。

間知(けんち)石・間知ブロック擁壁

間知石や間知ブロックを組み合わせて設置された擁壁が、間知石・間知ブロック擁壁です。間知ブロックは軽量かつ低価格なコンクリートブロックで、また水平にも斜めにも積めるという扱いやすさもあり、昔から石垣などに広く使われています。高速道路を走っていると、山の斜面などにも間知ブロック擁壁を見かけるのではないでしょうか。

間知ブロック擁壁は、現行基準を満たしていれば高さ5メートルまでの擁壁の設置が可能となります。また、外側からは見えませんが、一定間隔で鉄筋コンクリート造の控え壁が作られています。一般的に、高低差の大きい住宅地に用いられており、壁面が傾いていることが特徴です。

斜めに積み上げたものは矢羽積、水平に積み上げたものは布積と呼ばれます。

大谷(おおや)石積み擁壁

大谷石積み擁壁とは、軽石凝灰岩の一種である大谷石を積み上げて造られた擁壁のことです。
大谷石は比較的加工がしやすい石材であることから、昔から外壁や土蔵の建材などに使用されてきました。昭和時代の建造物にもよく見られますが、耐久性の面で問題があるため、現在はあまり用いられていません。

 

空積み造擁壁

練積みとは違い、天然石などをモルタルやセメントを使わずに積み上げることを「空積み」と言います。現行法では技術基準を満たしていないため、耐久性・安全面に注意が必要です。
裏込めした土が雨水などによって流失し空洞化している場合があるため、崩落の危険性があります。

 

擁壁のさまざまな形状

片持ち梁式

  • 逆T型:T字を逆さまにしたような形に土台を築く擁壁。隣の敷地との境界に余裕がある場合に使用します。
  • L型:L字の形の擁壁。隣の敷地との境界ギリギリでも立てやすいのが特徴です。
  • 逆L型:L字の逆。擁壁の背面に宅地などがあり掘削が難しい地形に使用します。

重量式

土圧を擁壁の自重で支えます。前面や背面に勾配をつけるため、片持ち梁式よりも厚みが必要です。

もたれ式

自立しない形で、地山にもたれるような形で土圧に抵抗します。

 

現行の建築基準法を満たしているかどうかが重要

建築基準法を満たした擁壁

コンクリート造や間知ブロック造の擁壁は、現行の建築基準法を満たした工法であれば、安全性があると推測できます。

建築基準法施工令の第142条(擁壁)では、擁壁の条件について以下のように定めています。(一部抜粋)

第百四十二条 第百三十八条第一項に規定する工作物のうち同項第五号に掲げる擁壁(以下この条において単に「擁壁」という。)に関する法第八十八条第一項において読み替えて準用する法第二十条第一項の政令で定める技術的基準は、次に掲げる基準に適合する構造方法又はこれと同等以上に擁壁の破壊及び転倒を防止することができるものとして国土交通大臣が定めた構造方法を用いることとする。

一 鉄筋コンクリート造、石造その他これらに類する腐食しない材料を用いた構造とすること。
二 石造の擁壁にあつては、コンクリートを用いて裏込めし、石と石とを十分に結合すること。
三 擁壁の裏面の排水を良くするため、水抜穴を設け、かつ、擁壁の裏面の水抜穴の周辺に砂利その他これに類するものを詰めること。

引用:e-Gov法令検索より抜粋

擁壁を造る場合は、必ず構造計算を行い安全性を確認しなければなりません。しかし、古い擁壁の中には、現行の建築基準法を満たしていない「不適格擁壁」もあります。
擁壁の高さが2メートル以上には、工作物の建築確認が必要となりますし、排水状況が悪化し水圧が加わることを防ぐために、水抜き穴の設置が義務付けられています。
物件を購入する際は、現行の建築基準法を満たした擁壁であるか、水抜き穴が設置されているか確認することが重要です。

擁壁適合の確認方法

不適格擁壁だとわかった場合、擁壁工事を含めた費用負担が発生してしまいます。必ず購入前に擁壁の適合・不適合をチェックしましょう。

擁壁適合の確認方法は簡単です。検査済み証があるかないかで判断できます。検査済み証が交付されているか、住宅会社や不動産会社に問い合わせてみましょう。また、擁壁の検査済み証の確認は、市役所でも行えます。

擁壁が適合かどうかは、様々な情報と計算から総合的に判断されます。例えば、以下のような事態を避けるために、荷重や擁壁の自重・支持力などから擁壁の安全率を算出する方法があります。(安全率は1.5以上が基準)

  • 転倒:底版の上の土の重さが足りず、土圧に抵抗できず倒れてしまうこと
  • 滑動:底版の摩擦力が足りず、水平に動いてしまうこと

擁壁適合の確認はそれほど手間がかからないので、物件を購入する前には必ず確認すると良いでしょう。

擁壁トラブルを回避するための地盤調査

擁壁のある物件を購入する際は、検査済み証で擁壁適合を確認しても、現時点で地盤が本当に安全なのか気になるのではないでしょうか。擁壁自体に問題がなくても、擁壁を支える地盤の地耐力(地盤自体の力)に問題がある場合もあります。住宅の不同沈下の大半は、軟弱地盤の上に建てられた擁壁が沈んだことによるものであると言われています。

軟弱地盤の例

  • 海・河川・沼・田んぼを埋め立てて作った土地
  • 近くに水路がある土地
  • 暗渠(あんきょ:水路が地下に埋設されたもの)付近の土地
  • 傾斜地などに人工的に盛土をして作った土地
  • 粘土や砂を多く含む地層

他にも、擁壁に近い部分に建物配置があると、建物下の地盤に緩みが生まれ、不安定になる場合も見受けられます。
より安心して生活するために、専門家による地盤調査を実施して、現時点での地盤の状態を把握することをおすすめします。

ジャパンホームシールドは、200万棟を超える地盤調査・解析実績から得たノウハウをもとに、多角的な地盤調査・解析を行っています。
さらに、地形図や地質図などの「資料調査」、周辺の造成や家屋の有無などを調べる「敷地周辺調査」、地盤の支持力を調べる「現地調査」と3Stepの調査を行い、擁壁のある宅地では、①盛土・埋め戻し土の状況、②経過年数からの安全性、③締まり具合からの安全性を確認しています。
擁壁のある物件を購入する際は、地盤の状態を正確に把握しておくことが購入後のトラブル防止につながります。地盤調査を検討されている方は、ジャパンホームシールドにお気軽にご相談ください。

ジャパンホームシールドの企業サイトはこちらから

おわりに

今回は、高低差のある土地で、側面の土が崩れ落ちるのを防止するための「擁壁」についてご紹介しました。

住宅の安全を守る意味で大切な擁壁にはいくつか種類があり、中には古くて劣化が進んでいる擁壁や、現行の建築基準法を満たしていない擁壁もあります。

擁壁が崩れて近隣の方に被害を与えてしまった場合、損害賠償責任が発生します。そのような事態を招かないためにも、現行の建築基準を満たしていない擁壁や、亀裂やひび割れなどが入って補強工事が必要な擁壁がある物件の購入はできる限り避けたいところです。

住宅購入後に擁壁が不適合だと判明した場合、建て替えや修復工事が必要となりますが、その費用はかなり高くつく場合もあるので、住宅を購入する際は、擁壁が現行の建築基準法を満たしているかどうかを確認して、地盤調査の実施なども視野に入れましょう。

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