秋になるとなぜ葉が赤や黄に色づくのでしょう。
今回は、日本の秋の風情である紅葉とその名所として挙げられる渓流・渓谷について解説します。
紅葉のしくみ
日本は四季が明瞭で、季節ごとの風情を堪能することができます。これから紅葉シーズンを迎えますが、皆さんはなぜ秋になると葉が変色して赤や黄になるか疑問に思ったことはないでしょうか。
落葉樹の葉が変色するのは、葉に含まれる主要物質が季節ごとに交代するためです。
まず、 葉が緑の季節は、「クロロフィル」という光合成に関係した物質が葉の中で多く生成されます。クロロフィルは太陽光の可視光線のうち、赤や青の光線を吸収し、緑を反射しますそのため私たちの目には葉が緑に見えるのです。
秋になると、クロロフィルは 生成されにくくなり、それまで目立たなかった 「カロチン」という物質が多くを占めるようになります。カロチンはクロロフィルより安定した物質のため、秋になって気温が低下しても葉の中に残っています。カロチンは青と青緑の光線を吸収し、黄色および赤の光線を反射します。その結果、葉の色は黄色として私たちの目に映ります。
では赤い葉はどうでしょう。赤は「アントシアニン」 という物質が関わってきます。クロロフィルとカロチンは細胞膜の中にあって光合成に関係していますが、 アントシアニンは細胞液の中に溶けています。 秋になると気温の低下により葉の細胞に水を送る力が弱まり、葉の中で細胞液中の糖とタンパク質の反応が促されます。この反応からアントシアニンが生成されます。アントシアニンは、青、青緑、そして緑の光を吸収するため、赤い色が反射され、 私たちの目には赤の葉として映るのです。
イチョウなどの黄色く紅葉する樹木は秋になってもクロロフィルが生成されずカロチンが優勢になるため、黄色く映り、カエデ(もみじ)やツタなど赤く紅葉する樹木は糖の増加によりアントシアニンが生成され赤く映るというわけです。
どちらの色も気温の低下がポイントになります。ならば、気温の低下が集中して起きる場所は紅葉が促進される 「紅葉の名所」 になりそうですが、実はそういった場所があります。
紅葉と「渓谷」
「紅葉の名所」としてイメージする場所はどういったところでしょうか 都市部なら代々木公園などの都市公園や京都をはじめとする寺院の境内などでしょう。 ですが、大自然の中で紅葉を楽しみたい人なら、山間に色づく紅葉を思い浮かべるのではないかと思います。
こうした自然の中での紅葉の 名所として挙げられる場所に 「渓流・渓谷」 が思い当たるのではないでしょうか。 例えば、 青森県の奥入瀬渓流、栃木県の日光いろは坂、山梨県の昇仙峡、富山県の黒部渓谷、宮崎県の高千穂峡、などです。
ここで渓谷とは何かをまず確認しておきましょう。
地形学辞典(1)によると、「山地部を流れる渓流河川がつくる谷。谷壁は急斜面をなし、谷床を欠くので谷の横断形はV字型を示す。 谷壁・谷底に基盤岩が露出し、谷底には粗粒の岩塊が点在し、滝と早瀬が多く、階段状の縦断面形を呈する(一部略) 」 とあります。
要するに、谷幅が狭く岩盤が複雑に露出している谷、ということです。こうした渓谷に紅葉 赤や黄がさすと陽光を浴びて何とも言えない素晴らしい風情を醸し出します。
紅葉になる樹木の生育条件とそれに該当する地質は[表1]のとおりです。
すなわち、火山麓の浸食された斜面・渓谷は紅葉の条件のそろった最適な土地といえるでしょう。
昇仙峡の紅葉と地質
最後に渓谷と紅葉の織り成す景観が見事な昇仙峡を例に紅葉と地質の関係についてみてみましょう。
昇仙峡は山梨県甲府市の市街地のすぐ北にひかえる八ヶ岳秩父山系の山を侵食してできた渓谷の一つです。元となる山体は[図2]に示すように花崗岩および花崗閃緑岩類からなります。これらの岩石はマグマが地下深くでゆっくり固まってできた岩なので、その中の物質は目視で確認できるほど大きな結晶をつくります。 主に黒い色をした雲母を主体とする部分と、 白い色をした石英を主体とした部分に分けられます。結晶が大きいとこれら色違いの物質間で性質の差も大きくなります。このような岩石が地表に現れ風化すると、物質の境界部分に割れ目が入り、大きくブロック状に分離し始めます。こうした作用が長年続くと、 分離して岩から外れたものはやがて砂になります。
砂がたくさんある場所は、中に隙間が多くなるので水はけが良くなります。これは先に述べた紅葉の条件①を満たします。そしてこの風化によって山体が侵食に弱くなると谷が発達しますが、花崗岩は塊状に侵食が進むため、谷はごつごつした岩が多くなり、まさに渓谷の情景をつくります。この渓谷を伝って山頂から水や冷たい空気が下りてきます。すなわち紅葉の条件②③を満たします。さらに昇仙峡は、 八ヶ岳・秩父山系の南向き斜面に位置することから日当たりが良く、 紅葉の条件④を満たします。
このように、 昇仙峡は紅葉の条件をほぼ全て満たしていると言ってもいい恵まれた地質環境にある場所なのです。
●参考文献
1)町田はか (1981) 『地形学辞典』 二宮書店p.161
2)なぜ⾚くなる?紅葉のしくみやきれいな紅葉が⾒られる条件を解明
https://www.honda.co.jp/kids/explore/autumn-leaves/
3)産業技術総合研究所地質図NAVI
https://gbank.gsj.jp/geonavi/geonavi.phpac.jp/~kamao/geo.htmlhttps://gbank.gsj.jp/geonavi/geonavi.php
4)tenki.jp
https://tenki.jp/suppl/m_deguchi/2020/10/12/30022.htm
技術士(応用理学部門:地質)
地盤品質判定士
2006年ジャパンホームシールド株式会社に入社、日本全国の住宅地盤の安全性評価業務に携わる。2011年より同社地盤技術研究所研究員、現在に至る。
趣味:気になる地形をバイクで見に行くこと。バイオリン。