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石畳とはちみつ色の家 コッツウォルズ
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コロナ禍で行動が制限される日々が続いています。海外旅行ができず、落ちこんでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回は、海外の地盤情報をお届けしたいと思います。

 

石造りの町 コッツウォルズ

皆さんは海外旅行の楽しみといえば何を思い浮かべるでしょうか。

 

美味しい食べ物、有名な絵画彫刻、雄大な風景・・・。いろいろあって考えるだけでも楽しいものです。そんな中で「日本と大きく異なる風景の中を散策すること」を楽しみとして挙げる方も多いでしょう。

 

ヨーロッパの田園地帯を旅すれば、石畳の街路や石造りの建築物、なおかつそれらが自然と見事に調和している景観に強く魅せられます。

 

例えばロンドンの西北西およそ150kmにコッツウォルズ(羊の丘)という丘陵地帯があります。「はちみつ色の家」が美しい町並みをつくっている人気の観光スポットです。

 

建物はコッツウォルズ地方で産出される中生代の石灰岩や砂岩を利用して建てられています。これらの石材は「コッツウォルズ・ストーン 」と呼ばれます。この岩石に含まれる化石や鉄、マグネシウムなどの不純物が酸化変質して茶色~灰色になると、岩石の地色の白色と混ざって「はちみつ色」 に見えるのです。

 

また、この地域では、14世紀頃から集落が成立しているそうで、その長い年月も建物や町並みの色合いを上品なものにしています。

 

コッツウォルズの不思議な地形

ところで皆さんは、イギリスや北部フランスなどの田園風景と北海道にある牧場の風景とが何となく似ていると思ったことはないでしょうか。

 

 

 

共に、標高がせいぜい100~ 300m 程度の小高い丘がうねうねと続き、緩やかに傾斜した斜面には畑や牧場がパッチワークのように配置されています。

 

本州と比べ冷涼な北海道なので、緯度の高いイギリスと「植生」が似ているから景観も似たように見えるという理由もあるのですが、うねうねと小高い丘が続く「地形」にも風景の類似を感じさせる理由があります。

 

一般に日本の山は降雨による斜面崩壊や流水による侵食作用で削られるケースが多いため、谷は深く尾根はとがった形をしています。ところが、北海道やイギリスの田園風景が広がる場所では、山と谷の比高がせいぜい100m 程度で丘の頂は非常になだらかです。

 

では、こうした地形はどのように形成されたのでしょうか。

 

凍結融解の繰り返しでできた周氷河地形

図1をご覧ください。まず、基盤岩の傾斜したケスタという名前の土地があります。基盤岩を傾斜させる地殻変動により小高い山がつくられ、次に山の地表近くの水分が寒冷な気候によって凍結します。氷となって体積が増加すると地表面の土は斜面から垂直に持ち上げられます。

霜柱が土を持ち上げている様子をイメージしてもらうとわかりやすいと思います。その後、直射日光によって氷が融解すると土は重力に従って鉛直落下します。これらの結果として斜面を這うように土は移動します。

 

1サイクルではとても少ない移動量ですが、この繰り返しによって土砂が長年にわたって移動した結果、図2のように、まるでアイスクリームが溶けたかのようになだらかな丘になります。

 

こうした作用でできた地形のことを「周氷河地形」と呼びます。聞き慣れない名前ですが、元の意味は「氷河の周辺で形成される地形」です。しかし造語されたときとは異なり、現在では前述のように「凍結融解を主なプロセスとして形成された地形」という趣旨で使われています。

 

もっとも、現在のイギリスでは地下水が凍るほど気温が下がるのは国土の北部に限られますので、コッツウォルズのようなイギリス中南部の周氷河地形は今よりも寒冷な気候だった時代に形成された地形の名残になります。

 

また、地下水が凍結するような寒冷な気候のもとでは、岩石の中の細かい割れ目に水が浸透すると、割れ目の中で氷が膨張し圧力によって岩石を砕く作用も起きます。その結果、周氷河地形の見られる地域では砕けて角ばった岩石がゴロゴロと斜面に点在することになります。

 

このようにして露出した岩石が石材として集落の形成に利用されました。「コッツウォルズ・ストーン」と呼ばれる「はちみつ色」の石材は、まさにコッツウォルズ地方の丘を構成する岩石が破砕することで得られた石材なのです。

 

参考文献
1)町田貞(1984)1、地形学、大明堂、P146
2)町田ほか(1981)、地形学辞典、二宮書店、P258
3)吉川ほか(1973)、新編日本地形論、東京大学出版会、P256
4)町田貞(1984)、同、P310

 

 

こぼれ話 『ラスト サムライ』の違和感の正体は?

2003年に『ラスト サムライ』というアメリカ映画が公開されました(主演:トム・クルーズ、助演:渡辺謙)。映画の中では日本の農村風景が描かれているのですが、「何かが違う!」と思わずにはいられない奇妙な映像でした。

ニュージーランド タラナキ山

この違和感は日本の本州の農村風景を周氷河地形の谷で再現しようとしたことに原因があるようです。

 

撮影地ニュージーランドは、イギリスと気候が似ており周氷河地形もたくさん見られます。周氷河地形は地下水の凍結融解によるため、必ずしも河川や沢のような水流を必要としません。一方、日本の農村は狭い斜面であっても水を引いて水田を作ることで成り立つため、日本の風景に水流は欠かせません。

 

『ラスト サムライ』では滔々(とうとう)と流れる水流はほとんど描かれず、戦闘シーンはゆるやかな斜面に芝草が生えた「牧場」でした。映画を観たときの違和感は、私たちが地形の違いを無意識に感じ取った結果といってもいいでしょう。

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