地盤と建物のWebメディア。知って、学んで、解決する!
地盤と建物のWebメディア。知って、学んで、解決する!
傾斜地に住宅を建てるメリットとリスクは?安全な家づくりのために押さえるべきポイントと費用
この記事をシェアする
  • Facebook
  • X
  • LINE
  • URLをコピー

傾斜地には、比較的安価で購入できたり、高低差を活かして眺望の良い場所に家を建てたりできるメリットがあります。しかし、傾斜地で安全な家づくりを行うには、地盤の状態や建築費用、法令など、注意しなければならないことがあります。

そこで今回は、傾斜地を購入して家を建てるメリットや注意点についてご紹介します。

 

傾斜地に住宅を建てるメリット

傾斜地は土地が斜めになっているため、住宅を建てるために土地を平らに造成したり、 住宅の基礎構造を斜面に対応できる形状にする必要があります。平地とは違う、高低差のある特殊な形ならではのメリットをご紹介します。

 

眺望を楽しめる

傾斜地では視界を遮る建築物がほとんどないため、カーテンやブラインドを開ければ思う存分眺望を楽しむことができます。
花火や夜景、海などの景色を楽しんだり、隣家の視線を気にせずリビングに大きな窓を付ける、見晴らしのいい方角に広いウッドデッキを設けるなど、開放感のある間取りで快適な生活環境が期待できます。

 

日当たりが良く採光性に優れる・風通しが良い

遮蔽物が少ないため採光性に優れ、室内が明るくなりやすい点が挙げられます。また、窓を開けやすいため風通しも良く、きれいで新鮮な空気を室内に流せることもメリットといえます。

 

高低差を有効活用できる

傾斜地の高低差を活かすことで、地下・半地下の間取りなど平地では難しい設計も可能になることがあります。例えば、

  • 地下の空間をビルトインガレージにして駐車スペースを確保する
  • スキップフロアを設ける
  • 高低差が大きいところに2階建ての二世帯住宅を建てる
  • 玄関と駐車場を2階につくり、道路とつなげる
といった個性ある家づくりも実現できます。
新築注文住宅で遊び心のあるデザインにこだわりたい場合などは、選択肢となるかもしれません。

土地が比較的安価

平地に比べ、土地を比較的安価な値段で購入できることも魅力の1つです。

 

傾斜地に住宅を建てるリスクは?

高低差がある、人工的に造成されているという特殊性から、やはり平地にはないデメリットがあることも理解しておかなければなりません。

 

地盤の強度に不安がある

傾斜地でありながらすでに土地が平らな状態で売りに出されている場合は、何かしらの造成が施されています。

  • 切土:山を切り崩す
  • 盛土:土を盛る
  • 切盛土:切土と盛土が混在
土を盛るなどして造成を行うため、自然にできた地盤と比べるとどうしても強度が劣ります。豪雨や地震によって土砂災害や地すべりなどを起こすリスクがあるため、要注意です。建物自体の耐震性を上げるためにも、地盤改良する必要があります。

建築・工事費用が高額になる場合がある

土地代は安く抑えることができても、住宅を建てるための費用が高額になるケースがあります。安全性を高めるための調査や工事が必要になるほか、特殊な立地環境から資材・工作機械の搬入が難しく、費用が上乗せされる可能性があります。

さらに建設場所が山林地ともなれば、上下水道や電気などのインフラ工事を新たに行う可能性もあります。

 

雨水が溜まったり洪水が流れ込む場合がある

傾斜地は勾配があるため、排水設備が十分でないと上から流れてきた雨水が敷地内に溜まってしまうことがあります。家が痛む原因にもなるため、適切な対策を講じることが必要です。
また、周辺の状況によっては台風や大雨、洪水などで水が流れ込む恐れもあります。

 

傾斜地に住宅を建てたい!地盤調査は必須?

傾斜地は、土地を平坦にするため切土・盛土で造成されています。切土は山の自然地盤をそのまま活用するため比較的締まっていますが、盛土は人工的に土砂を盛り立てて地盤をつくるため、締め固め次第では強度面で不安な点があります。
また、高低差のある土地では、土地が低い側に擁壁(ようへき)が設置されることがあり、擁壁に近い部分は埋戻し土が不安定な場合があります。
そのため、傾斜地に住宅を建てる際は、地盤の安全性を確認するためにも地盤調査は必須です。

擁壁って何?

擁壁とは、高低差のある場所に住宅を建てる際、住宅の下の土が崩落しないように支える壁状の構造物です。コンクリートやブロックなどで作られます。2メートルを超える擁壁をつくる場合は、建築基準法に基づく「工作物の建築確認申請」が必要となります。

傾斜地に住宅を建てる際にかかる費用

必要となる可能性が高い費用の例をご紹介します。

地盤調査の費用

地盤調査を行う場合、比較的低コストの方法で8~10万円程度かかります。より詳しく調べられるボーリング調査は数10万円程度からとなります。

地盤改良工事の費用

地盤改良工事をしなければならない場合、地盤改良の手段としては鋼管杭の採用が多いのですが、基礎形状を深基礎とする場合もあります。鋼管杭の費用は必要本数、杭長により異なります。

擁壁・造成工事の費用

土砂崩れ防止のため、擁壁などを設置する造成工事が必要になる場合があります。擁壁の形状や材質、傾斜の度合いや面積によっても費用は大きく変わります。

 

おさえておきたい法律や規制

傾斜地に家を建てるために、区域指定や関係する法律の規制などをおさえておきましょう。

「急傾斜地崩壊危険区域」かどうか

急傾斜地崩壊危険区域とは、崖崩れにより相当数の居住者等に危害が生ずるおそれがある急傾斜地と、崖崩れが助長・誘発されないようにするため、切土や盛土など一定の行為を規制する必要がある土地のことで、都道府県知事が指定した地域です。
急傾斜地とは、「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」、いわゆる急傾斜地法において、傾斜度が30度以上である土地とされています。
指定区域で建物を建築するには、行政とやりとりして許可を得ることが必要です。非常に安く購入できますが、安全な場所ではありません。また、擁壁設置を求められて造成工事費用がかかることも想定されます。
ほかにも、急傾斜地崩壊危険区域特有の事情による出費が求められるケースがあります。指定区域の土砂崩れ防止工事は、国土交通省砂防部で定める急傾斜地保全事業より国が半額工事費を負担して、都道府県が行います。しかし、その工事で恩恵がある人には「受益者負担金」として工事費用の一部負担が求められることがあるためです。
該当地域は都道府県庁の公式サイトや国土交通省が作成している「かさねるハザードマップ」でも把握できますが、確実に確認するには、都道府県庁に直接出向きましょう。

がけ崩れの様子
がけ崩れの様子
提供:土砂災害防止広報センター

 

「がけ条例」を理解しておく

がけ

がけ条例とは、崖に面している敷地で、一定の高さを超える崖付近での建物の建築に規制をかけた条例です。
崖崩落の危険性を考慮し、家を建てる際は、崖の高さに応じて、崖から一定の距離や高さを確保しなければならないということが全体的な趣旨となります。
「崖」の定義は一般的に「2メートルまたは3メートルを超える高低差があり、30度を超える傾斜がある土地」とされますが、がけ条例の対象となる高さや規制内容は都道府県によって異なるため、建築地のがけ条例を確認しましょう。
がけ条例が影響して、住宅を建てることができない土地や、擁壁(ようへき)の設置が義務付けられている土地があります。また、基礎を深くした深基礎とする必要があったり、杭などの地盤改良工事が必要となるなどさまざまな制限があります。
崖付近に住宅を建てたい場合は、その土地に建物の建築が可能かどうか、ハウスメーカーや工務店、建築家などにアドバイスを求めましょう。その土地ががけ条例に該当し、対策が必要となると、造成工事費など余分にかかります。

安全な家づくりのために知識を身に付けて対策しよう

傾斜地に建つ家には、メリットだけではなくさまざまなリスクがあります。マイホームの安全な暮らしを守れるよう、知識を身に付け、必要な対策を講じましょう。

 

信頼できる会社に地盤調査を依頼する

特に、地盤調査は必ず行いましょう。盛土部分や擁壁埋戻し部分の締まり具合の確認が必要です。また、住宅の基礎となる土地が足りない場合は、低い土地の部分に盛土をして平地の面積を確保しないといけないかもしれません。盛土部分と擁壁の埋戻し部分は、土がしっかり締まっていないと地盤沈下の原因となりますので、地盤調査をして地盤がしっかりしているかを確認する必要があります。

傾斜地の建築に関する規定については、「建築基準法施行令第 80 条の 3」にて規定されている、土砂災害特別警戒区域に指定されているかどうか確認の必要があります。この地域内に指定されている場合、その環境に応じて、「鉄筋コンクリートの外壁または塀」などによって、土石等に耐えられる構造にしなければなりません。

また、都道府県の条例により、他に細かな規定が決められている場合があるので、事前に確認しておくことが重要です。
一般人では何をどこまですれば良いのか難しい場合も多いので、地盤調査や解析の実績がある企業や専門家に相談してください。
地盤調査は、実績が豊富で信頼できる調査会社を選ぶようにしましょう。

擁壁がある場合
提供:土砂災害防止広報センター

リスクを知り、想定しておく

地盤の緩みによって建物自体が受ける悪影響として、以下のようなパターンがあります。

  • 家が傾く
  • 基礎や外壁、内壁にひび割れが生じる
  • 塀や門扉にもひび割れやゆがみが発生する
宅地を人工的に造成しているため、地盤に無理な力が働いてしまうことがありますので、擁壁も定期的なメンテナンスが必要です。

擁壁の劣化を放置していると、土砂崩れが起こり住宅そのものが倒壊する危険性もあります。擁壁側に隣家の敷地がある場合、その住居に被害が及べば損害賠償を請求されるリスクも無視できません。

また、近くの斜面が崩れてきて被害に遭う可能性もあるでしょう。地震や集中豪雨などの自然災害が多い日本では、地盤の弱い斜面は、崩落の危険性を常にはらんでいます。
傾斜地で暮らすには、こういったさまざまなリスクがあることを理解し、できる限りの対策を講じる覚悟が必要です。

おわりに

今回は、傾斜地に住宅を建てる際の注意点についてご紹介しました。
傾斜地には、比較的安価で購入できたり、見晴らしの良い場所に住宅を建てられたりするメリットがありますが、地盤の状態や建築費用など、注意しなければいけないことがあります。
また、傾斜地に住宅を建てる際は、住まいの安全性を確保するために、高低差を考慮した地盤調査を実施する必要があります。
地盤調査に関して正確な結果を得るために、実績豊富な地盤調査会社に依頼するようにしましょう。

よかったら記事のシェアをお願いします!
ジャパわん
facebook
X
LINE
URLをコピー